トップ > 学ぶ・調べる > 実験の原理と方法 > 抗体の役割

抗体の3つの働き

抗体には大きく分けて3つの働きがあります。

① 血液中や粘膜中に分泌され、外来の異物(病原体や毒素など)に結合して無力化する(中和作用)。
② 補体系を活性化し、バクテリアの細胞壁に穴を開けて殺傷する。
③ 貪食細胞による食作用を促す(オプソニン化)。

抗体の作用


免疫の4大キーワードと抗体

1. 抗体の特異性―毒素や病原体を正確に区別します。

2. 抗体の多様性―さまざまな抗原に対する抗体を産生するメカニズムを有しています。

3. 免疫記憶―麻疹(はしか)は一度かかると二度とかかりません*。
  *:100%かからなくなるわけではありません。

4. 免疫寛容―自分の組織や細胞を攻撃しません(自己寛容)。



抗体の特異性

抗体の特異性「一つの抗体は一つの抗原しか認識できない。」「ひとつの抗体はある特定の抗原しか認識できない。」
例えば、おたふくかぜウイルスを認識する抗体は、麻疹(はしか)のウイルスを認識できません。逆に、麻疹(はしか)ウイルスに反応する抗体はおたふくかぜウイルスに反応できません。これを「抗体の特異性」と言います。

またひとつのB細胞(抗体産生細胞)は一種類の抗体しか作れません。一方、病原体由来の危険因子は数百万種類以上あると言われています。

では、無数の危険因子に我々はどのように対処しているのでしょうか?

抗体の多様性と免疫記憶

抗体の多様性と免疫記憶、抗原特異的なB細胞の増大
我々の身体内のB細胞は、その抗体遺伝子の構築メカニズムにより、さまざまな抗原に対処するための抗体産生細胞に分化することができます。
ヒトやマウスの場合は、次項「マウスの抗体遺伝子再構成」で示すように抗体遺伝子の元となる遺伝子断片を多数有し、遺伝子断片の組み合わせによって、ある特定の抗原に対して結合する抗体の遺伝子を構成します。また、再構成した遺伝子の体細胞変異により、より特異性や結合力の高い抗体遺伝子を構築することができます。このメカニズムにより抗体の多様性が生まれます。
また、一部の細胞は記憶B細胞へ分化します。この記憶B細胞は長期間生体内に留まり、同じ抗原が再度生体内に入った際に直ぐに対処できるように生体内を循環・監視しています。


マウスの抗体遺伝子再構成

抗体を産生するB細胞は、骨髄から発生し、末梢で成熟します。この際に、抗体の遺伝子(免疫グロブリン遺伝子)に組換えが起こり、抗原結合部位(可変領域)に膨大なレパートリーが作られます。この現象は「遺伝子再編成」と呼ばれています。

H鎖の可変領域遺伝子:
V(約100~300種類), D(約25種類), J(6種類)から1つずつ遺伝子が選ばれて組み合わされます。

L鎖の可変領域遺伝子:
λとκの2つの遺伝子座が存在します。
κ鎖の場合はV(約40種類), J(約5種類)、λ鎖の場合はV(約30種類), J(4種類)から、1つずつ遺伝子が選ばれて組み合わされます。

遺伝子レベルで組み合わせを変化させることにより、限られた数の遺伝子から無数の抗原に対する免疫グロブリン(抗体)を作り出すことができます。 遺伝子再編成は胸腺でT細胞が成熟する際にも行われています。


免疫寛容

「数千万〜数億種類のB細胞は自分を認識・攻撃しないのか?」

抗体はあらゆる抗原に対応していますが、自己由来の成分は攻撃しません。抗体はあらゆる抗原に対応していますが、自己由来の成分には攻撃しません。これは「免疫寛容」機構によるもので、「自己寛容」といいます。
自己抗原に反応するB細胞も生まれるのですが、骨髄内の仕組みにより除去されます。この除去機構を逃れて末梢にたどり着いたB細胞があったとしても、自己に反応する抗体(自己抗体)を産生するB細胞は別な仕組みにより不活性化されているといわれています。

これらの仕組みが破綻すると免疫細胞が自分を攻撃する疾患「自己免疫疾患」を発症します。原因としてウイルス感染や高熱、妊娠、また最近では腸内細菌の多様性異常など諸説ありますが、詳細なメカニズムについてはまだよく分かっていません。


自己免疫疾患 一覧

自己免疫疾患一覧







関連リンク