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MHC class I HLA-A*24:02 influenza tetramerの開発


株式会社医学生物学研究所
研究開発本部 がん免疫開発ユニット
研究員 大鷹 弘紀

1.インフルエンザについて

インフルエンザは、毎年全世界で300~500万人の重篤症状の患者が発生し、約25~50万人が死亡する感染症です[1]。国内の、2014/2015年シーズンの累積推計受診者数は1,447万人です[2]。歴史的にも大流行が確認されており、1918年のスペインかぜにはじまり、2009年のパンデミック(H1N1)では日本の推計患者数は2 , 000万人とも言われています。また、近年では鳥インフルエンザ(H7N9)のヒトへの感染の危険性が注視されています。
インフルエンザに罹患すると、風邪の様な症状に加えて38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛等全身の症状が突然現れます。また、幼児や高齢者では重症化すると、急性脳症や肺炎を伴うこともあります。
インフルエンザはinfluenza virusに感染することにより起こります。influenza virus にはA , B , C型があり、主に流行に関わるのはA型とB型です。A型はさらに、HA(hemagglutinin)とNA(neuraminidase)というタンパク質の型により細分されます。

2.インフルエンザワクチン

2012年、WHO(世界保健機関)はインフルエンザのワクチンに関して、4 価ワクチン(A/H1N1 , A/H3N2 , B/Victori a, B/Yamagata)の使用を推奨しました[3]。これを受けて日本でも2015/2016年シーズンから4価ワクチンが使用されています。一方で、ワクチンを接種していても感染や重症化を必ずしも防げるわけではありません。その理由の一つとして、現行のワクチンが特定のinfluenza virus 株に特異的な抗体を誘導するように設計されていることが挙げられます。influenza virusは絶えず変異を繰り返していて、特にウイルス粒子の表面タンパク質は高頻度で変異が発生します。このため、ワクチンを接種していても、抗体の標的部位を持たなくなった変異型の季節性 influenza virusや、全く新しい型のinfluenza virus に対してはワクチンの効果は期待できません。こういったことから、様々なinfluenza virus株に対する共通ワクチンの開発が求められています[4]。

3.Influenza virus 特異的 T 細胞

前述の通り、現行のワクチンは抗体の産生を促すように設計されていますが、抗体を主とする液性免疫の他にも、ヒト免疫系には細胞傷害性T細胞(CTL: cytotoxic T cell)やヘルパーT細胞(Th: helper T cell)を主とする細胞性免疫があります。細胞性免疫では、細胞内でプロセシングされた自己/非自己のタンパク質由来のアミノ酸がHLA(ヒト白血球抗原)によって提示され、CTLあるいはThがそれを認識することにより免疫機能が発揮されます。influenza virus感染細胞は、ウイルス粒子の表面タンパク質以外にも、ウイルス粒子内のタンパク質由来のアミノ酸を細胞外に提示すると考えられます。つまり、CTLやThは変異の可能性の少ない部位(ウイルス株間で保存性の高い部位)を標的として influenza virus 感染細胞を特異的に認識し、排除できる可能性があります[5,6]。

4.HLA-A*24:02 拘束性 influenza virus エピトープ

弊社では、influenza A virus由来エピトープのテトラマー試薬を豊富にラインアップしております。一方で、主にアジアで頻度の高いHLA型であるHLA-A*24:02 拘束性のinfluenza virus特異的 CTL エピトープは、これまで取り扱っていませんでした。そこでこの度、以下の通りテトラマー試薬を開発致しました。まず、 IRD(Influenza Research Database)、IEDB(Immune Epitope Database)に登録された HLA-A*24:02 拘束性の、influenza A virus特異的なCTLエピトープの中から、10種類を選択し、Folding Testを行いました。そして、9種類のエピトープのテトラマー試薬(下表)を作製し、複数の健常人末梢血を用いてinfluenza 特異的CTLの誘導を試みました。下図は、その代表例で、4種類のエピトープに対する特異的CTLの誘導が確認されました。またこの他にも、新たに2種類のエピトープで特異的CTLの誘導が確認されました。
今後、CTLの誘導が確認された6種類のHLA-A*24:02拘束性influenza virus特異的エピトープ(表中青色)について、テトラマー試薬の新発売を予定しております。インフルエンザ研究の新たなツールとして、ご利用いただけますと幸いです。


HLA-A*24:02 拘束性infl uenza エピトープ製品化候補

Code No. 長さ 配列 infl uenza A subtype 抗原 位置(aa)
TS-M144 9 YYLEKANKI H1N1, H3N2, H5N1 PA 130-138
TS-M145 9 SYLIRALTL H1N1, H9N2, H5N1 PB1 216-224
TS-M146 9 RYTKTTYWW H5N1 PB1 430-438
TS-M147 9 SYINRTGTF H1N1, H9N2, H5N1 PB1 482-490
TS-M148 8 RYGFVANF H1N1, H1N2 PB1 498-505
TS-M149 9 TYQWIIRNW H1N1, H1N2, H3N1, H9N2, H5N1 PB2 549-557
flu-7 10 FYRYGFVANF H7N7, H1N1, H1N2 PB1 496-505
flu-8 10 LYASPQLEGF H1N1 PA 649-658
flu-10 10 SWPDGAELPF H1N1, H3N2 NA 456-465

PB1: polymerase basic protein 1, PB2: polymerase basic protein 2,
PA: polymerase acidic protein, NP: nucleocapsid protein

CTL 誘導例

生細胞リンパ球ゲートを分析した。
右上数値はCD8陽性細胞中のTetramer陽性細胞の割合(%)を示す。


MLPC: Mixed Lymphocyte-Peptide Cultures PBMCを血漿添加の培地に懸濁し、任意のペプチドを加えて、IL-2と共に培養することで特異的T細胞を誘導する方法。 Karanikasらの論文〔J. Immunol. 171:4898(2003)〕を参考に、MBLにて改良した。


参考資料

  • WHO influenza (seasonal) Fact sheet N211 March 2014
  • 国立感染症研究所「今冬のインフルエンザについて (2014/2015シーズン)」
  • Moa AM, et al ., Vaccine 34: 4092-4102 (2016)
  • Staneková Z, et al ., Virol J. 7: 351 (2010)
  • Uchida T, et al ., Microbiol Immunol. 55: 19-27 (2011)
  • DiPiazza A, et al ., Front Immunol. 7: 10 (2016)