Fluoppi (Fluorescent based technology detecting Protein-Protein Interactions) は、生きた細胞内でタンパク質間相互作用(Protein-Protein Interaction, PPI)を測定するための新しい基盤技術です。 Fluoppiは全く別の視点から蛍光タンパク質を利用した技術であり、PPIを細胞内の蛍光輝点(Puncta)として検出します。PPIの存在を示すPunctaはPPIが発生した場所で直ちに形成され、PPIの解離とともに分散します。 Fluoppiの最大の特徴は系の構築が簡便であり、また、得られるシグナルが明瞭である点です。特殊な装置を必要とせず、蛍光顕微鏡さえあればPPIを検出することができるため、イメージングを専門とする研究者以外の方々にも幅広くご利用頂けます。
PPI induction | PPI inhibition |
mTOR(FRB) and FKBP12 | p53 and MDM2 |
Fluoppi(フロッピー)はTag-technologyです。4量体形成能を有する蛍光タンパク質(FP-tag)と、多量体形成能を有するAssembly Helper Tag (Ash-Tag)から構成されます。蛍光相関分光法による測定で、Ash-Tagは希薄溶液中において平均的に4から8量体を形成することがわかっています。それぞれのtagに相互作用を検出したいタンパク質XとYを遺伝的に融合します。
タンパク質XとYの相互作用が無い場合、両者は分散して存在します。XとYが相互作用すると、Fluoppiのtagを融合したタンパク質同士が局所的に集まります。Tagの一方は蛍光タンパク質の為、顕微鏡下では蛍光性の輝点(Puncta)として観察されます。
■イメージ図
■ベクターマップ
■蛍光特性
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励起最大波長/蛍光最大波長 | モル吸光係数 (M-1cm-1) | 量子収率 | pH感受性 |
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AG | 492/505
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72,300 (492 nm)
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0.67 | pKa=5.0 |
■ワークフロー
1. Target gene amplification & restriction enzyme cut
Fluoppiの系を構築するためにはまず、タンパク質X/Yに各tagを融合したプラスミドを作製します。
最適な組み合わせを選択する為に、融合位置(N・C末)と融合するtag(FP-tag or Ash-tag)の違いにより、合計で8通りのプラスミドを作製することをお勧めします。
2. Ligation & sequencing
3. Transfection
作製したプラスミドをtransfectionします。
4. imaging
得られるシグナルが明瞭であるため、特殊な装置を必要とせず、蛍光顕微鏡さえあればPPIを検出することができます。
種々の刺激によりタンパク質X/Yが相互作用すると、Punctaが形成されます。一方、タンパク質X/Yが相互作用しない場合、蛍光は分散した状態で観察されます。
■p53-MDM2の相互作用の検討例
p53-MDM2の相互作用について、全てのバリエーションを検討しました。上段と中段の写真は8通りの組み合わせの検討結果、下段は、ネガティブコントロールとしてAsh-Tagのみをco-transfectionした結果です。この様に、様々な蛍光パターンが得られることがあるため、全ての組み合わせを試し、最適な組み合わせを選択する事をお勧めします。これまで検討したPPIでは8通りを検討するだけで多くの場合でPPIを検出できています。
FP-tag, Ash-tag自身は、細胞内の特定の領域に局在しません。このため、 Fluoppiは複数の細胞内領域において、タンパク質間相互作用を検出する事ができます。
■mTOR(FRB domain)とFKBP12のRapamycin依存的な相互作用のモニター例
mTOR(FRB domain)のC末にhAG(Humanized Azami Green)を融合し、FKBP12のN末にAsh-Tagを融合しました。Rapamycin添加前(左)は蛍光が分散して観察されますが、Rapamycin添加後(右)数分で相互作用を示すPunctaが徐々に形成されます。
左のグラフはRapamycin濃度依存的なPuncta形成の検出、右はFK506によるRapamycin競合阻害を示しています。Rapamycinを添加し、60分後に細胞を固定しました。観察は、ORCA-ER (Hamamatsu photonics)、IX71 fluorescence microscopy (Olympus)を使用し、ICY platform (Institut Pasteur)、 IGOR software (HULINKS Inc.)によって解析しています。
■p53-MDM2相互作用に体するPPI inhibitor効果の検出例
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p53-MDM2はタンパク質間相互作用阻害剤 (PPI inhibitor)の分野でよく知られた創薬ターゲットです。種々のがんではMDM2の発現量が高く、p53によるアポトーシスの誘導を阻害していることが知られています。
p53-MDM2をFluoppiに適用し、まず、最適な組み合わせを8通りから選択し、G418とHygromycinを用いてCHO-K1安定発現株を作製しました。
写真はNutlin-3(20 µM)添加後、継時的にPunctaが消失する様子を示します。数分でPunctaが解離する様子が観察されました。
写真右下の時間は、分:秒を示します。
Nutlin-3濃度依存的にPunctaが消失する様子を検出した結果です。各濃度のNutlin-3を添加し、30分後細胞を固定しました。In Cell Analyzer 1000(GE Healthcare)によりPunctaの蛍光輝度を測定した結果、IC50は6.3 µMと算出されました。
Keap1とNrf2のPPI(タンパク質間相互作用)は、細胞の様々なストレス応答のトリガーとなる非常に重要なタンパク質間相互作用です。近年の研究により、このKeap1-Nrf2相互作用がオートファジー関連因子p62のリン酸化を介して制御されていることが示されました1)。
p62がリン酸化されると、p62とKeap1との親和性が増し、Nrf2がKeap1から離れて核に移行できるようになります(p62-Keap1-Nrf2経路)。この結果、ストレス応答転写因子として知られるNrf2は様々なストレス耐性遺伝子の発現を亢進させます。
今回、弊社独自の技術であるFluoppiを用いて、Keap1とNrf2のPPIを可視化することができました。Keap1抗体を用いてマウス細胞画分を解析した結果では、Keap1は主に核近傍の細胞質(81%)と小胞体(14%)および核(5%)に存在することが報告されています2)。
1) Ichimura Y, et al., Phosphorylation of p62 activates the Keap1-Nrf2 pathway during selective autophagy. Molecular Cell. 51, 618-631 (2013) [PMID: 24011591]
2) Watai Y, et al., Subcellular localization and cytoplasmic complex status of endogenous Keap1. Genes Cells. 12, 1163-1178 (2007) [PMID: 17903176]
Azami Green(蛍光タンパク質)側にNrf2を、Ash-Tag側にKeap1を融合させたベクターをそれぞれ構築し、
transientにHT1080細胞に発現させた。核の周辺部に、Punctaを確認した。
データのご提供:筑波大学医学医療系 実験病理学 鈴木 裕之 先生