NKT細胞の発見

 2011年のノーベル生理学・医学賞の対象となった自然免疫系は、パターン認識型受容体が病原体に共通した構造を認識することで、迅速な生体防御を達成しています。自然免疫系が発動されると、更に抗原に対してより高い特異性と親和性を有する獲得免疫系がT 細胞やB 細胞によって誘導されます。この自然免疫系と獲得免疫系の中間的な役割を担う細胞の一つとしてNKT細胞が知られ、いまアレルギーやがんなど様々な分野で大いに注目されています。
 NKT細胞は、T細胞抗原レセプター (TCR) とNKレセプターを共発現する細胞で、CD1分子を認識する新たなリンパ球として1990年代に同定されました1)。日本では、谷口克先生 (独立行政法人理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター・センター長) らを中心に研究が進んできました。NKT細胞の存在様式は通常のT細胞と異なり、肝臓、骨髄に多く分布します。リンパ節や脾臓などのリンパ組織にはあまり存在していません。TCRのレパトアにも特徴があります。NKT細胞は、T細胞と同様にTCRを介して抗原を認識しますが、その多様性は乏しく (invariant)、マウスでは、α鎖はVα14、β鎖はVβ8.2、Vβ7、Vβ2、ヒトではα鎖はVα24、β鎖はVβ11だけが知られています (図1)。このことからNKT細胞は、invariant NKT細胞とも呼ばれています (以下iNKT細胞と略称します)。iNKT細胞上のTCRが認識する抗原も型破りで、通常のT細胞とは異なり、糖脂質を認識します2)。ヒトのiNKT細胞もげっ歯類のiNKT細胞も、種を超えて同じ糖脂質抗原を認識することから、iNKT細胞による糖脂質の認識は生体防御において根幹的な役割を持っていると考えられています (糖脂質抗原については後述)。


ヒトとマウスのiNKT細胞に発現するinvariant TCRの組合せ



iNKT細胞の働き

 iNKT細胞はIFN-γとIL-4、すなわちTh1細胞ならびにTh2細胞の両方のタイプのサイトカインを大量に産生することから、感染免疫、アレルギー、腫瘍免疫など、多様な疾患に幅広く関与していることが指摘されています。最近では、IL-17RBを発現する新規のNKT細胞が、喘息患者に多くみられる気道過敏性に寄与していることが報告されています3)。さらに、IL-17RB陽性NKT細胞はCD4の発現の有無で2種のサブセットに分類されます。CD4陽性のサブセットはIL-25刺激によってTh2サイトカインのIL-13、 Th9サイトカインの IL-9とIL-10、 そしてTh17サイトカインのIL-17aとIL-22を産生します。一方、CD4陰性のサブセットはRORγt陽性であり、IL-23刺激によってTh17サイトカインを産生します。特に前者は肺に多く存在し、ウイルス誘発性の気管支炎に関係していると報告されています4)
 また全身性強皮症、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチなどの自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎の患者では、iNKT細胞の血中数が減少していることから、これら疾患の病因にもiNKT細胞の関与が示唆されています5−9)。さらにがん患者の患部では、腫瘍に集積するiNKT細胞の数と質が予後に相関することが報告されています10, 11)



iNKT細胞の抗原

 iNKT細胞の抗原として実験で最も利用されるのは海綿から抽出したスフィンゴ糖脂質のα-Galactosylceramide (α-GalCer) です2)。内因性抗原としては、リソソームの構成因子であるイソグロボトリヘキソシルセラミド (iGb3) が有力視されていましたが12)、ヒトではiGb3は存在しません。一方、外因性抗原としてはSphingomonas属細菌やBorrelia属細菌などの特定の細菌由来の糖脂質を認識することが報告されていますが13−15)、その詳細は不明です。しかし、ついに2011年に致死性の高いグラム陽性菌である肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae) およびB群連鎖球菌 (Group B Streptococcus) が持つ糖脂質が外因性抗原として特定されました。加えて、iNKT細胞の活性化には、糖だけでなく脂肪酸 (バクセン酸) も重要であることが明らかになりました16)



MHCクラスI様糖タンパク質CD1

 糖脂質を抗原として提示できるユニークなMHCクラスI様糖タンパク質としてCD1分子が知られています17, 18)。CD1分子とMHCクラスI分子の立体構造が良く似ており、共にβ2ミクログロブリンを結合しますが、抗原結合部位の構造が異なります。MHCクラスI分子は、親水性ペプチドの結合に適した親水性の溝構造をもつのに対し、CD1分子は、疎水性の深い2つの溝構造となっており、糖脂質のアルキル鎖が結合しやすい構造をしています19) (図2)。CD1分子はさらに細かく、グループ1 (CD1a、 CD1b、 CD1c) とグループ2 (CD1d) に分類することができます。ヒトには両方のグループのCD1分子が存在しますが、マウスやラットにはグループ2のCD1分子 (CD1d) しか存在しません。iNKT細胞はこのグループ2に属するCD1dと糖脂質の複合体を特異的に認識します。

図2  MHC class I/ペプチド抗原複合体と、CD1d/α-GalCer複合体の模式図



iNKTの検出とCD1dテトラマー

 テトラマーとは、たとえば細胞表面の受容体に結合するリガンド分子を四量体化させた複合体を指します。免疫学の分野ではMHCクラスI分子のテトラマーが最も有名です。一般に、MHC/ペプチド複合体やCD1d/リガンド複合体がTCRと結合する親和力は低く、両者の結合状態を維持することは困難です。そこで、MHC分子と抗原の複合体を人工的に四量体化することによって、対象となるTCRに対する結合力を増強させ、特定のTCRを発現するT細胞あるいはNKT細胞を検出することができます。(図3、図4)。
 α-GalCer/CD1dテトラマーは、iNKT細胞だけと反応することから、最も正確にiNKT細胞を検出できる方法と考えられています。実際にCD1dテトラマーあるいはTCRに対する抗体を反応させた細胞集団をそれぞれ比較してみると、検出される細胞の割合が一致しないことが報告されています20)
 なお、当社は米国のBeckman Coulter, Inc. よりMHCテトラマー試薬の国内開発・販売に関する独占的なライセンスを受けています。


図2  α-GalCer/CD1dは、モノマーだとinvariant TCRとの結合を維持できないが、テトラマーなら離れにくく検出が容易になる
図4  α-GalCer/CD1d tetramerによるiNKT細胞の検出



iNKT細胞のがん免疫療法

 近年、iNKT細胞を用いたがん免疫療法が行われるようになりました。この方法には幾つかの利点があります。まず、iNKT細胞は、人工的に合成したα-GalCerで活性化できるため、活性化の制御が容易です。また、α-GalCerにより活性化されたiNKT細胞は、複合的な抗腫瘍効果が期待できます。がんに対する直接的な作用としては、パーフォリンやグランザイムなどによる細胞傷害活性が挙げられます。また、間接的な作用としては、大量に産生されるIFN-γ等のサイトカインや樹状細胞の成熟化に伴うIL-12産生などによる、NK細胞やCD8陽性T細胞の働きを増強するアジュバント効果が挙げられます (図5)。すなわち、自然免疫活性化療法とCTL療法の良いところを兼ね備えた方法ともいえます。
 千葉大学の本橋新一郎先生、中山俊憲先生のグループでは、2001年より肺がんを対象とした2種類の臨床試験を進めています21)。一つは、患者末梢血から誘導した樹状細胞にα-GalCerをパルスした後、再び体内に戻すことでiNKT細胞を活性化させる樹状細胞療法です。樹状細胞投与後にIFN-γを産生する細胞数の増加が見られた症例においては、同反応が見られなかった症例よりも全生存期間の延長が確認されています22)。本治療法は厚生労働省より第3項先進医療(高度医療)として認定されています (2012年3月現在)。もう一つは、iNKT細胞の機能回復を目指し、in vitroで増殖させたiNKT細胞を体内に投与する方法です。さらに、千葉大学・耳鼻咽喉科の岡本美孝先生と共同で頭頸部がんに対しても、同様な臨床試験が進められて、肺がん同様に良好な結果が報告されています23-25)


図5  活性化されたiNKT細胞は細胞傷害性顆粒で直接、サイトカインでCTLやNK細胞を介して間接的にがん細胞を攻撃する



終わりに

 iNKT細胞は発見当初その生理的な活性化物質は不明であったものの、その機能が多岐にわたることは予想されていました。現在進行中の臨床応用例としては糖脂質リガンドを用いた免疫活性化を利用したがん治療が着目されていますが、近年発見された感染症病原菌由来のリガンドを考えると、NKT療法は病原性微生物感染の治療などにも大いに寄与するかもしれません。また、NKT細胞は様々な炎症反応を促進する方向に働くことから、自己免疫疾患やアレルギーなどに見られる過剰な免疫反応を抑制するアプローチの一環として、NKT細胞の働きや増殖を制御する方法の開発も待たれます。



References

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2) Kawano T, Cui J, et al., CD1d-restricted and TCR-mediated activation of Vα14 NKT cells by glycosylceramides. Science 278, 1626−1629 (1997), PMID: 9374463
3) Terashima A, Watarai H, et al., A novel subset of mouse NKT cells bearing the IL-17 receptor B responds to IL-25 and contributes to airway hyperreactivity. J. Exp. Med. 205, 2727−2733 (2008), PMID: 19015310
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13) Mattner J, Debord K, et al., Exogenous and endogenous glycolipid antigens activate NKT cells during microbial infections. Nature 434, 525−529 (2005), PMID: 15791258
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19) Moody DB, Zajonc DM, et al., Anatomy of CD1-lipid antigen complexes. Nat. Rev. Immunol. 5, 387−399 (2005), PMID: 15864273
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25) Yamasaki K, Horiguchi S, et al., Induction of NKT cell-specific immune responses in cancer tissues after NKT cell-targeted adoptive immunotherapy. Clin. Immunol. 140, 167−176 (2011), PMID: 21185787


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コードNo.
製品名
クローン
Antibody, Human
IM-3450
Anti-CD161 (Human) mAb-PE
191B8
IM-0398
Anti-CD4 (Human) mAb
13B8.2
Antibody, Mouse
D326-3
Anti-IL-17RB (Mouse) mAb
B5F6
D327-3
Anti-IL-17RB (Mouse) mAb
3H8
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