はじめに

◎ アレルゲン反応性を、好塩基球のCD203cの発現量変化で評価
◎ 抗原特異的IgE測定やヒスタミン遊離試験に比べ、臨床症状と高い相関性
◎ 全血を用いた試験のため、生理条件に近い評価が可能
◎ アレルゲンが水溶性ならば、いずれの物質も評価可能
◎ EDTA全血、ヘパリン全血のどちらでも100 µL/sampleで測定可能


 アレルギー検査において、抗原特異的IgEの検査は頻用されるものの、症状と必ずしも一致しない場合があります。また特異度が高いアレルギー評価法の一つにプリックテストや経口負荷試験がありますが、アナフィラキシーショックをおこす可能性があり、安全性の問題を否定できません。
 Allergenicity Kitは、全血にアレルゲンを添加して好塩基球をin vitroで活性化し、好塩基球の活性化マーカーであるCD203cの発現量の変化をフローサイトメトリーにて測定する試薬です(図1)。
 アレルギー反応の検出において、フローサイトメトリーを用いた好塩基球の活性化の検出は、抗原特異的IgE測定やヒスタミン遊離試験 (HRT) より高感度・高特異度との報告があります1)(図2)。なお、HRTでは分離した好塩基球を用いて測定するため、体内環境を反映していない可能性が指摘されています。

図1:好塩基球の活性化とCD203cの発現

図2:アレルギー症状と各評価値との相関



アレルギーとは?

 アレルギーで最も良く知られているのは、IgEが関与するI型過敏症(即時型過敏症)です。現在では、花粉症、食物アレルギー、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患を有する患者が人口の3割以上いると云われています。
 外部から取り込まれたアレルゲンは、まず抗原提示細胞 (APC) により分解・提示され、T細胞を活性化します。活性化T細胞はB細胞を活性化し、抗体産生を誘導します。液性免疫の誘導にかかわるTh2細胞が産生するIL-4は、IgE産生に必須です。IgEはアレルゲンと反応し、好塩基球 (Basophil) や肥満細胞 (Mast cell) の細胞表面に結合します。IgEとアレルゲンの複合体は好塩基球や肥満細胞のIgE受容体のクラスタリングを促進し、細胞を活性化する事でヒスタミンやロイコトリエンC4などの炎症メディエーターの放出を誘導し、即時型のアレルギー症状を引き起こします2) 3)(図3)。

図3:アレルギー反応に関わる白血球



アレルギーの検査について

 血清IgE量の測定はアレルギーの診断に多用されますが、アレルギー性症状と必ずしも一致しないと考えられています。一方、特異度の高いアレルギーの検査方法としてプリックテストや経口負荷試験が挙げられますが、時にアナフィラキシーを惹起する場合があり、安全な方法とは言えません。これらの事より、安全かつ正確なアレルギーの検査方法が求められています。
 好塩基球は末梢血白血球に1%弱存在し、末梢組織においてアレルギー反応に関わるマスト細胞と似た性質を有します。IgEの受容体 (FcεRI) の発現、活性化に伴うヒスタミンなど炎症メディエーターの放出、Th2型サイトカイン (IL-4, IL-13) を産生することから、血中のマスト細胞と言われています。
 アレルゲン-IgE複合体は好塩基球のFcεRIのクラスタリングを誘導し、好塩基球を活性化します。活性化した好塩基球では、細胞表面上のCD63やCD203cの発現が直ちに上昇する事が報告されています。CD203cは好塩基球の定常状態において低レベルで発現しており、活性化に伴いその細胞表面上の発現量が増えます4)。一方、CD63は抗体の反応性が二様性になる事があるため、結果の解釈が難しい場合があります。よってCD203cの方が、好塩基球活性化の評価に適すると考えられています。



アレルギー反応の評価における好塩基球CD203cの測定

 種々のアレルギー反応の評価において、in vitroでアレルゲンにより活性化した好塩基球CD203cの発現変化測定の有用性についてAllergenicity Kitを用いた検討が行われています。
 小麦アレルギーを発症した患児のアレルギー反応の評価について、血清中総IgE、小麦特異的IgE、そしてAllergenicity Kitによる好塩基球のCD203cの発現状態について比較検討が行われました。その結果、総IgEの検出はアレルギー症状と相関しませんでしたが、小麦特異的IgEと好塩基球のCD203cの発現上昇はアレルギー反応の有意な評価方法である事が示されました。またこのとき、好塩基球のCD203cの発現評価は抗原特異的IgEの検出に比べ感度、特異度共に優れていることが示されました5)(図4)。
 スギ花粉症患者を対象に抗原特異的IgE力価を測定したところ、アレルギー症状 (JRQLQ No. 1スコア) との相関がほとんどないことが示されました (r = 0.312, p = 0.751)。一方、好塩基球におけるCD203cの発現変化による評価では、アレルギー症状と高い相関が示されました (r = 0 .774, p < 0.0001) (図2)。また、アレルギー治療過程における抗原特異的IgE、好塩基球のヒスタミン遊離試験、CD203cの発現を比較した結果、抗原特異的IgEや好塩基球のヒスタミンの遊離は治療前に比べて低下が見られなかったものの、CD203cの発現は減少しました1)6)(図5)。また卵アレルギー、牛乳アレルギー患児においても、CD203cの発現量はIgEの測定に比べ疾患との相関が高いことが示されています7)
 これらの報告より、種々のアレルゲンに対するアレルギー反応の評価として好塩基球のCD203cの発現変化を測定する事は、既存のIgE測定法に比べて有用であり、さらには、アレルギーの治療効果の判断にも寄与する可能性が示されました。なお、Allergenicity Kitは欧州では臨床診断薬として承認されています。

図4:ROC curve

図5:スギ花粉症の治療期間と各種マーカーの比較



Allergenicity Kit による測定例

キット構成品
◎フローサイトメトリー用抗体: CD294/CRTH2-FITC, CD203c-PE, CD3-PC7
◎サンプル処理バッファー: 活性化バッファー (EDTA血用), 反応停止液、溶血液、固定液
◎ポジティブコントロール: 抗IgE抗体

Allergenicity Kit による測定例



測定の流れ

測定の流れ



References

1) Fujisawa, T., et al., Allergol. Int. 58, 163, 2009, PMID: 19390237
2) Stone, K. D., et al., J.Allergy Clin. Immunol. 125 Suppl. 2, S73, 2010, PMID: 20176269
3) Schneider, E., et al.,Eur. Cytokine Netw. 21, 142, 2010, PMID: 20837449
4) Buhring, H.J., et al., Int. Arch. Allergy Immunol. 133, 317, 2004, PMID: 15031605
5) Tokuda, R., et al., Allergol. Int. 58, 193, 2009, PMID: 19240377
6) Nagao, M., et al., Int. Arch. Allergy Immunol. 146 Suppl. 1, 47, 2008, PMID: 18504407
7) Sato, S., et al., Int. Arch. Allergy Immunol. 152 Suppl. 1, 54, 2010, PMID: 20523064



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