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ウエスタンブロッティング(Western Blotting:WB)は、SDS-PAGEを行った後、タンパク質を疎水性膜(メンブレン)に転写し、抗体を用いて特定のタンパク質を検出する方法です。

【WB 作業の流れ】
目的タンパク質に対する抗体の入手 ➡ SDS-PAGE ➡ メンブレンへの転写ブロッキングと抗体反応バンドの検出

原理

SDS-PAGE後のゲルにメンブレンを密着させ、分離したタンパク質を電圧をかけてゲルからメンブレンに移します。タンパク質を移動させたメンブレンに、一次抗体(目的とするタンパク質に対する抗体)を反応させ、洗浄後、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)などの酵素で標識した二次抗体を反応させると、酵素活性を利用した化学発光法もしくは発色法により検出することができます。


メンブレンへの転写

SDS-PAGEで分離させたタンパク質をポリアクリルアミドゲルからメンブレンに専用の装置(ブロッティング装置)を使って移動させることを「転写」といいます。


ブロッティング装置の比較

セミドライ式 タンク式
所要時間 短い 長い
バッファー
使用量
少ない 多い
転写効率
など
● 高分子量タンパク質の転写効率が悪い

● 高分子量タンパク質の転写効率が良い
● 転写のムラが少ない
セミドライ式ブロッティング装置

メンブレンの種類

よく使われるメンブレンにはニトロセルロースメンブレンとPVDFメンブレンがあります。

■ PVDFメンブレン:破れにくくタンパク質との吸着力が強いので、CBB染色、一部のアルカリホスファターゼでの検出、リプローブを行う場合に適しています。やや高価です。

■ ニトロセルロースメンブレン:PVDFメンブレンに比べると破れやすいですが、安価でブロッティング前にメタノールによる親水処理を必要とせず、非特異的反応が少ないという利点があります。

※リプローブ:一度検出した後に抗体をはがして、再度別の抗体と反応させて検出すること。


転写バッファー

転写の際に使用するバッファーにはいくつか種類があり、タンパク質の分子量や性質の違いにより使用する転写バッファーを変えます。ここでは一般的に使用される転写バッファーを紹介します。

■ 一般的な転写バッファーの組成

25 mM Tris-HCl 192 mM glycine 20% MeOH

高分子量のタンパク質はゲルから離れにくく、低分子量のタンパク質はメンブレンから抜けやすい

メタノールはゲルの安定化剤で、ゲルの膨潤を防ぎます。
高分子量タンパク質を転写する場合、メタノールの濃度を下げてゲルを緩ませ、タンパク質がゲルから離れやすくなるようにします。



ブロッキングと抗体との反応

ブロッキングと抗体の反応ブロッキング

ブロッキング

タンパク質を転写したメンブレンは抗体との非特異的吸着を防ぐため、ブロッキング処理をします。
ブロッキング処理で抑えられるのはあくまで非特異的な反応のみで、交差反応(目的のタンパク質のエピトープと同じエピトープがある他のタンパク質に抗体が特異的に結合してしまう反応)を防ぐことはできません。
ブロッキングには様々な溶液が用いられますが、以下に一般的なブロッキング溶液を示します。

■ 1~3% BSA in PBS-T
BSA(Bovine Serum Albumin;ウシ血清アルブミン)を用います。

■ 1~5%スキムミルク in PBS-T
ブロックがより強力で、よく用いられますが、特異的な抗原抗体反応まで抑えてしまう可能性があります。
特にスキムミルクにはリン酸化タンパク質のカゼインが含まれるため、リン酸化タンパク質の検出には不向きです。

PBS-T(PBS-Tween 20)
Tween 20を0.05%加えたリン酸緩衝整理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)です。


抗体の反応

ブロッキングが終わったら一次抗体、HRP標識二次抗体と反応させます。
このときの一次抗体の濃度は重要で、濃度が低すぎると目的のタンパク質が検出できず、濃度が高すぎると非特異反応が起こり関係のないタンパク質が検出されてしまいます。

■ 一次抗体の至適濃度の検討
初めて使う抗体は、使用文献やデータシートに記載の推奨濃度を参考にして濃度を検討します。
良い結果が得られなければ一次抗体の希釈率を何段階か変える、あるいは希釈液の種類を検討します。

■ 二次抗体
市販のHRP標識抗体もしくはAP(アルカリフォスファターゼ)標識抗体を使う場合もあります。
一次抗体の動物種およびアイソタイプを確認し、間違った二次抗体を使わないように注意します。

二次抗体を用いずに、HRPを直接標識した抗体を用いると反応時間の短縮につながります。
二次抗体の非特異的シグナルがなくなるという利点もあります。

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バンドの検出

化学発光法

メンブレンに基質を含む反応液をかけて、抗体に標識された酵素が触媒する化学反応によって基質が発光した光を冷却CCDカメラもしくはX線フィルムで検出します。

化学発光法

発色法

発色試薬を用いて行います。一般的に、HRPを用いるときはDAB(diaminobenzidine)とTMB、AP(アルカリフォスファターゼ)を用いるときはBCIP/NBTを用います。

>> 抗体の標識


方法

メンブレンへの転写(セミドライ式ブロッティング〜メンブレンの染色) ※MBLでの一例です。
作業内容

ゲルより一回り大きく切ったPVDFメンブレンをメタノールに1分間浸した後(親水処理)、転写バッファーに浸しておきます。
メンブレンより一回り大きく切った濾紙も転写バッファーに浸しておきます。
※ニトロセルロースメンブレンの場合は親水処理を行う必要がないので、メタノールに浸けずに転写バッファーに浸します。

電気泳動後のゲルを転写バッファーに浸します。

イラストのように、泡が入らないように、+電極プレート側からバッファーに浸しておいた濾紙・メンブレン・ゲル・濾紙・-電極プレートを順に重ねます。
転写が適切に行われるように、+電極プレート側にメンブレンを、-電極プレート側にゲルをセットするようご注意ください。



+電極は+電極プレートへ、-電極は-電極プレートへつなぎます。
(ゲル1枚の場合)50 mAで1時間*通電して転写します。*転写条件は実験条件によって異なります。

電源を切ってメンブレンを取り出し、メンブレンを一時的に染色します。
転写が上手く行われたかどうかを確認したり、分子量マーカーを可視化させて分子量の位置を確認することができます。一般的に染色にはポンソーS溶液が使われます。脱色も容易で、その後の抗体反応にも影響を与えません。

ポンソーSによるメンブレンの染色


↓


抗体との反応〜バンドの検出(ブロッキング〜HRP反応による抗原の検出) ※MBLでの一例です。
作業内容

メンブレンをブロッキングバッファーに浸し、室温で1時間(〜4℃で一晩)振とうします。

洗浄バッファーで洗浄します(5分×3回)。

一次抗体を希釈した1% BSA in Tween PBS, pH7.2にメンブレンを浸し、室温で1時間振とうします。

洗浄バッファーで洗浄します(10分×3回)。

二次抗体を希釈した1% BSA in Tween PBS, pH7.2にメンブレンを浸し、室温で1時間振とうします。

洗浄バッファーで洗浄します(10分×3回)。

化学発光法

化学発光検出薬をマニュアルに従って調製し、ラップの上にメンブレンを置き、試薬をかけます(1分間)。
試薬をピペットなどで取り除き、メンブレンを泡が入らないようにラップで包み、化学発光検出装置(CCDカメラ)にセットし露光します。

バンドの検出




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