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研究ツールとしての抗体

抗体の抗原に対する高い特異性は、研究者に様々な情報をもたらします。

① 目的分子の検出
興味をもっている分子の発現量や局在を確認します。
使用方法:ウエスタンブロッティング、免疫沈降、ELISA、フローサイトメトリー、免疫組織染色など。
例)オートファジーモニタリングツール 抗LC3抗体

② 目的分子の分離精製
細胞や組織の抽出液などの、タンパク質や核酸、アミノ酸、ホルモンなどを数多く含む混合液から目的の分子のみを分離します。
例)エピトープ融合タンパク質を抗体結合アガロースビーズで精製します。

③ 細胞の分離精製
細胞表面に発現しているタンパク質に対する抗体を利用して、様々な種類の細胞から目的のタンパク質を発現する細胞を分離します。

④ 目的分子の生体内での機能解析
目的分子の機能を阻害(もしくは亢進)する抗体を培養細胞や実験動物に投与して、目的分子の生体内での機能を解析します。
例)TregマーカーGITR抗体(DTA-1)による担癌マウスに対する抗腫瘍効果

ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の違い

ポリクローナル抗体 モノクローナル抗体
動物種
ウサギ(Rabbit)、モルモット(Guinea Pig)、ヤギ(Goat)、ヒツジ(Sheep)、ラット(Rat)、マウス(Mouse)、ニワトリ(Chicken)など ラット(Rat)、マウス(Mouse)、ニワトリ(Chicken)、ウサギ(Rabbit)、ヒト(Human)など
由来
抗血清 ハイブリドーマ
クラス・サブクラス 複数種類が混在 均一
エピトープ 複数のエピトープに反応 単一のエピトープに反応
特異性 複数種の抗体が存在するため、モノクローナル抗体よりは特異性は低い 良質な抗体を選べば特異性は高い
再現性 ロット差が生じる 同一な抗体が半永久的に得られる
安定性 複数の抗体が混在しているため、固定などを行った抗原への結合力が失われることが少ない
標識やFc領域の除去などの加工に強い
全て同じ性質の抗体であるため、固定などを行うと抗原のエピトープが失われ抗体が結合できなくなることがある
標識やFc領域の除去などの加工に弱い



抗体を選ぶときにチェックすべき項目

以下の情報をチェックして、計画している実験系に適した抗体を選びましょう。

例)抗体の選び方


① 抗原名
Anti-○○の○○が抗原名です。まずは「Anti-○○(自分が興味を持っている分子名)」で検索し、別称や略称でも調べてみましょう。

② クローナリティ 
mAb: モノクローナル抗体 (monoclonal antibodyの略)
pAb: ポリクローナル抗体 (polyclonal antibodyの略)

③ 免疫動物
二次抗体を選ぶ際に重要になります。
>>二次抗体について
>>免疫動物について(別ページにリンクします。)

④ アイソタイプ
アイソタイプは二次抗体やアイソタイプコントロールを選ぶ際に重要になります。
実験のネガティブコントロールにはアイソタイプが同じで目的分子を認識しない抗体を「アイソタイプコントロール」として使用します。
例では、さらにサブクラスとL鎖の種類が明記されています(IgGのサブクラス:IgG2a、L鎖の種類:κ鎖)。
>>二次抗体について
>>アイソタイプについて(別ページにリンクします。)

⑤ 交差性
抗体がその動物の抗原に結合できる場合に「交差性がある」と言います。実験で用いる動物種に交差性があるか確認します。また、マウス、ヒトなどどれか1つの種にだけ反応する抗体なのか、マウス・ヒト・ラットなど多くの種と反応する交差性のある抗体なのかも確認しておきます。
例の抗体はヒト、マウス、ラット、ハムスターの抗原に交差することが確認されています。

⑥ 使用法
目的の使用法に使えるかは重要な情報です。
例の抗体はウエスタンブロッティングで使用可能です。

⑦ 標識
例はHRP酵素が直接標識されている一次抗体です。
【関連】HRP-DirecTシリーズ -高感度HRP標識抗体-
二次抗体の場合には計画している実験系に適した標識(蛍光色素、酵素、磁気ビーズなど)を選びます。
>>抗体の標識について(別ページにリンクします。)

ポリクローナル抗体で特にチェックすべき項目

精製方法
IgG(IgM):血清からIgG(IgM)画分を精製したもの
IgG2αなど:IgGサブクラスまで精製したもの
Ig(aff.):抗原カラムを用いてアフィニティー精製したもの
精製した抗体ほど非特異反応が少なくなると考えられます。

モノクローナル抗体で特にチェックすべき項目

クローン
同じ抗原分子に対するモノクローナル抗体でもクローンが異なる場合は、その抗原分子の異なるエピトープ(epitope)を認識します。また、クローンによって適しているアプリケーションも異なります。

精製方法
培養上清そのままの場合もあるので、精製済みかどうか確認する必要があります。
精製した抗体ほど非特異反応が少なくなると考えられます。
>>抗体の精製方法について(別ページにリンクします。)

二次抗体

二次抗体とは?

一次抗体を検出するために用いる抗体です。
一次抗体を産生した動物種の免疫グロブリンに対する異なる種類の動物由来の抗体を、二次抗体として使用します。二次抗体は一般的には標識されています。

選択例)
一次抗体:抗マウスLC3抗体(ウサギで作製)
二次抗体:抗ウサギIgG抗体(ヤギで作製)

二次抗体で特にチェックすべき項目

免疫動物
目的の分子に対する抗体を産生した動物種を確認して選びます。

標識
計画している実験系に適した標識(蛍光色素、酵素など)を選びます。







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