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腸管免疫関連抗体




粘膜免疫とM細胞

粘膜は身体の内側にありながら、常に外部環境と接しています。病原体に対しては抗原特異的免疫反応を誘導することで、その侵入を防御することが出来ます。腸管のリンパ組織の代表格であるパイエル板(Peyer's Patches, PP)はFollicle Associated Epithelium(FAE:濾胞被蓋上皮)に覆われ、そこには特殊な上皮細胞であるM細胞が散在しています。M細胞は腸管内に存在する細菌等の外来抗原をトランスサイトーシスによってパイエル板の内側に運び込みます。抗原はM細胞の近傍に存在する樹状細胞などの抗原提示細胞に受渡され、分解、抗原提示されることにより、T細胞やB細胞の活性化を介して、最終的に分泌型IgAを主体とした粘膜免疫応答が起こります。これまでマウスのM細胞を検出する方法として、レクチンであるUEA-1(Ulex europaeus agglutinin-1)を用いた染色が行われてきました。しかし、UEA-1は粘液分泌に関わる杯細胞(Goblet cell)にも結合します1)。また、UEA-1はヒトのM細胞には結合しません。よってM細胞の機能解析のためには、より特異性が高く、かつ動物種を超えた共通のマーカーの発見が望まれていました。
図1 腸管とM細胞
東京大学医科学研究所の清野先生らは、UEA-1陽性細胞を動物に免疫することでM細胞特異的な抗体(NKM16-2-4)を取得しました2)。NKM16-2-4は、α(1,2)フコースを含む糖鎖複合体を認識し、パイエル板M細胞だけでなく絨毛M細胞にも反応することが示されています。類毒素ワクチン抗原を結合させたNKM16-2-4をマウスに粘膜アジュバントと共に投与すると、ワクチン単独で処理した場合にくらべ、より低容量のワクチン抗原で免疫応答を誘導できることが分かりました2)。さらに、NKM16-2-4陽性M細胞のマイクロアレイ解析によって、パイエル板M細胞特異的に発現する分子の一つとしてGP2が見出されました3)
一方、理化学研究所RCAIの大野先生らは、FAEのマイクロアレイ解析から独自にGP2がマウスM細胞だけでなく、ヒトM細胞にも発現することを示し4)、GP2がヒトとマウスに共通のM細胞マーカーであることを世界で初めて報告しました。GP2はM細胞の腸管管腔側に強く発現するだけでなく、一部はエンドソームにも発現が見られることから、エンドサイトーシスレセプターとしての機能が示唆されています。また、GP2は細菌のI型線毛の構成成分であるFimHと結合することが判明し、さらにGP2欠損マウスを用いた表現型解析から、GP2と細菌の結合がパイエル板における抗原特異的免疫誘導に極めて重要なステップであることが見出されました4)。すなわち、M細胞に発現するGP2は抗原選択的な粘膜免疫応答に関与していると言えます。
長年待ち望まれたM細胞特異的マーカーが利用できるようになり、粘膜免疫における抗原取り込み機構を応用した予防・治療法開発への現実的な展望が見えてきました。感染症や癌に対する粘膜ワクチンとしての経口ワクチン、さらには炎症性腸疾患に対する全く新しい予防・治療法への展開が期待されます。



References

1) Jang MH et al. PNAS. 101, 6110-5 (2004) (PMID: 15071180)
2) Nochi T et al. J Exp Med. 204, 2789-96 (2007) (PMID: 17984304)
3) Terahara K et al. J Immunol. 180, 7840-6 (2008) (PMID: 18523247)
4) Hase K et al. Nature 462, 226-30 (2009) (PMID: 19907495)



M細胞関連抗体

理化学研究所RCAIの大野博司先生と共同開発した抗体です。
Anti-GP2 (Glycoprotein 2) (Human) mAb (Code No. D277-3)
Anti-GP2 (Glycoprotein 2) (Mouse) mAb (Code No. D278-3)

これらの抗体は下記の論文で使用されております。
Rios D et al. Mucosal Immunol. 9, 907-16 (2016) (PMID: 26601902)
Gonzalez-Hernandez MB et al. J Virol. 12, 6934-43 (2014) (PMID: 24696493)
Hase K et al. Nature. 462, 226-30 (2009) (PMID: 19907495)
写真1 GP2免疫組織染色