インフラマソームについて

 生体は常に様々な病原体にさらされていますが、免疫系をはじめとする生体防御機構によって感知・除去され、あるいは共存することで健康が維持されています。病原体はDanger Signalとして感染宿主に作用しますが、一部の免疫細胞はパターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors: PRR) を発現しており、それらがDanger Signalを迅速に認識する事で免疫系の活性化が開始されます1)。PRRにはその存在様式によって大きく2種類に分けられます。一つは細胞外の微生物に共通した構造を認識するTLRs (Toll-Like Receptors) です(図1、 Sensor 12)。その一例として、バクテリア細胞壁由来のペプチドグリカンやLPSがあります。LPSを認識するTLR4は、細胞表面上でCD14やMD2と協働してLPSを認識し、細胞内にシグナルを伝えます。また、TLR7やTLR9は細胞内のエンドソームに存在し、それぞれウイルス由来のssRNA、バクテリアやウイルス由来のCpG DNAを認識します。
 もう一方は細胞質で働くPRRであり、RLHs (RIG-like helicase) ファミリーやNLR (NOD-like receptors)ファミリーが知られています3)。RLHはウイルス由来のRNAを認識し、NF-κBやIRF3/7の活性化を介してI型IFNの産生を誘導します(図1、Sensor 2)。
 NLRファミリーは微生物由来の成分に加え、傷害を受けた細胞から放出されるDAMPs (Danger Associated Molecular Patterns) であるdsDNA、ATP、尿酸結晶、アスベスト、シリカ、またアジュバントとして使われる水酸化アルミニウムなどを認識します。活性化したNLRはアダプタータンパク質のASCを介してPro-Caspase-1を会合させ、インフラマソームと呼ばれる巨大な複合体を形成します。インフラマソームの形成に伴って接近したPro-caspase-1は互いに自己消化して活性化Caspase-1となり、その酵素活性によってIL-1ファミリーサイトカインであるIL-1βやIL-18の前駆体を切断して成熟化させます。
 また、DAMPの一つとしてHMGB1 (High Mobility Group Box-1) が知られています4)。HMGB1はクロマチンと結合する内在性のタンパク質で、IL-1αやIL-33(後述)と同様に細胞のネクローシスにより細胞核から細胞外に放出され炎症反応を誘導します。HMGB1は樹状細胞や単球などに作用し、成熟化・浸潤・サイトカインや炎症メディエーターの放出を誘導します。また、好中球上のTLR4に認識されるとNAD(P)Hが活性化されることが報告されています。疾患との関連としてHMGB1は関節炎やシェーグレン症候群における炎症反応に寄与していることが示唆されています。また、HMGB1は癌において高発現しており、NF-κBの活性化を介して細胞の生存・増殖を助長していることも報告されています。

図1  Danger Signalsの認識機構と炎症反応



IL-1ファミリーサイトカインとは

 IL-1ファミリーは構造的に類似した11分子から構成され、酵素による分解を受けてその生理活性が変化する事が知られています5),6)
 IL-1βとIL-18は通常は前駆体で細胞内に存在しますが、インフラマソーム活性化に伴うCaspase-1の活性化により切断され、成熟型となり細胞外に分泌されます。分泌されたIL-1βとIL-18は、様々な細胞に作用して主にTh1型の炎症反応や感染局所への好中球の遊走を誘導します。なお、IL-1ファミリーはシグナル配列を有しておらず、細胞外へ分泌されるメカニズムは不明です。



IL-18と疾患

 IL-18は樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、上皮細胞などが産生するサイトカインであり、T細胞に作用する事で主にTh1型の免疫反応を促進します。また抗CD3抗体存在下で1型ヘルパーT細胞(Th1)をIL-18で刺激すると、IFN-γに加え、2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカインのIL-13を産生するようになります。さらにIL-18は好塩基球や肥満細胞に作用する事で、アレルギー反応を惹起するなど、複雑な生理作用を示します。
 IL-18の活性を阻害する血清成分としてはIL-18BP(IL-18 binding protein)が知られています。正常時にはIL-18BPはIL-18よりも過剰に存在することでIL-18の活性を抑制し、炎症反応時にはIL-18が多量に発現されることで炎症反応に向かうと考えられています7)
 疾患との関連においては、気管支喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患、関節リウマチ・全身性エリテマトーデス (SLE)・成人スティル病・多発性硬化症・クローン病・潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患の血中においてIL-18は高値を示します。急性腎障害においては尿中にIL-18が検出され8)、また2型糖尿病ではその進行にIL-18が関わっていると言われています9)



IL-33と疾患

 IL-33もIL-1ファミリー分子に属しますが、活性化の制御機構がIL-1βやIL-18と異なります(図2)。IL-33はIL-1αと同様に通常は核に存在します。核内因子としての機能は定かではありませんが、in vitroの検討実験でヌクレオソームの表面に結合して転写を抑制する事が知られています。IL-33はネクローシスに伴って全長のまま細胞外へ放出され、IL-33の受容体を発現する免疫細胞を活性化します。炎症部位においては好中球などが放出するプロテアーゼによって限定分解を受け、さらに活性が上昇することも報告されています。一方、アポトーシスの場合は活性化されたCaspase-3やCaspase-7によってIL-33は切断されるため、その炎症誘導能は無くなります。
 ヒトにおけるIL-33の発現様式については、内皮細胞、上皮細胞や脂肪細胞、胃・肺・皮膚・リンパ節・腎臓など様々な組織や細胞においてその存在が確認されています。マウスでは特に脳や脊髄に多く発現する事が報告されています。細胞外に放出された全長型のIL-33は様々な白血球に作用し、主にTh2型のサイトカイン産生を誘導し10)、主に寄生虫感染に対する防御機構に関与しています。つい最近、慶應義塾大学のMoro、Koyasuらによって、IL-33の作用によりTh2型サイトカインを大量に分泌するNH細胞 (natural helper cell) がマウスの内臓脂肪組織内に存在することが発見されました。寄生虫感染防御の一端が解明されたとして話題になりました11)
 またIL-33は寄生虫防御だけでなく、喘息・鼻炎・副鼻腔炎などのアレルギー性疾患、関節炎・糖尿病・炎症性腸疾患・SLEの発症、さらにはアルツハイマー病や心疾患の発症にも関与していることから、様々な疾患に幅広く関与していると考えられます12)

図2  IL-33の活性制御機構



T1/ST2と疾患

 T1/ST2はもともと心筋の培養上清中から発見された分子ですが、のちにIL-33の受容体である事が判明しました13)。T1/ST2は様々な組織や細胞に発現する事が知られています。また、3つのアイソフォームの存在が知られており、細胞膜貫通型のST2L、膜貫通ドメインを欠失したST2S、ST2SよりC末がさらに短くなったST2Vがあります。可溶型のT1/ST2はIL-33に結合し、IL-33の活性を中和していると考えられます14)。なお、ST2VはmRNAの分解によりタンパク質としてはほとんど存在していません。
 T1/ST2はIL-33と同様に種々の疾患に関与する事が知られ、血清中の可溶型T1/ST2は心疾患・潰瘍性大腸炎・SLE・肺炎・敗血症などで上昇する事が報告されています。しかし、可溶型T1/ST2と疾患の発症メカニズムとの関連はまだ分かっていません。



終わりに

 上述したようにインフラマソームは病原体に対する生体防御に非常に重要な役割を果たします。一方で、制御機構の破綻は疾患の発症に直結します。NLRファミリーの一員であるNLRP3/クライオピリンの変異は、インフラマソームの恒常的な活性化に伴う成熟型IL-1βの過剰産生を引き起こし、自己炎症性疾患であるCAPS (Cryopyrin-Associated Periodic Syndrome) の原因となると考えられています15)。家族性地中海熱の患者においてはASCのPyrinドメインに変異が確認されています。また炎症性大腸炎のクローン病患者ではNOD2遺伝子に変異が見られます。
 IL-1ファミリーの多くは炎症性サイトカインとして働きますが、その免疫反応誘導能は様々です。実際に、IL-37は免疫抑制性の活性が報告されています16)。その他のIL-1ファミリー因子について生理機能の報告はほとんどありませんが、今後の解析によってその機能や重要性が明らかになると考えられます。
 またインフラマソームは、無機物や金属塩などこれまで受容体が不明であった物質を(間接的に)認識して免疫反応を調整しています。この特徴を利用して、人工物によってインフラマソームの活性を制御することで、将来的に癌や自己免疫疾患の治療、ワクチンの効率化などへの応用が可能になると期待されています。



References

1) Matzinger P, The danger model: a renewed sense of self. Science, 296, 301-5 (2002), PMID: 11951032
2) Kawai T, Akira S, Toll-like receptors and their crosstalk with other innate receptors in infection and immunity. Immunity, 34, 637-50 (2011), PMID: 21616434
3) Martinon F, Mayor A, et al., The inflammasomes: guardians of the body. Annu Rev Immunol. 27:229-65, 2009, PMID: 19302040
4) Klune JR, Dhupar R, et al., HMGB1: endogenous danger signaling. Mol Med., 14, 476-84 (2008), PMID: 18431461
5) Dinarello CA, Immunological and inflammatory functions of the interleukin-1 family, Annu. Rev. Immunol., 27, 519 (2009), PMID: 19302047
6) Sims JE, Smith DE, The IL-1 family: regulators of immunity. Nat Rev Immunol., 10, 89-102 (2010), PMID: 20081871
7) Liang D, Ma W, et al., Imbalance of interleukin 18 and interleukin 18 binding protein in patients with lupus nephritis. Cell Mol. Immunol., 3, 303-6 (2006), PMID: 16978540
8) Washburn KK, Zappitelli M, et al., Urinary interleukin-18 is an acute kidney injury biomarker in critically ill children. Nephrol Dial Transplant., 23, 566-72(2008), PMID: 17911094
9) Trøseid M, Seljeflot I, et al., The role of interleukin-18 in the metabolic syndrome. Cardiovasc Diabetol., 9,11 (2010), PMID: 20331890
10) Liew FY, Pitman NI, et al., Disease-associated functions of IL-33: the new kid in the IL-1 family. Nat Rev Immunol., 10, 103-10 (2010), PMID: 20081870
11) Moro K, Yamada T, et al., Innate production of T(H)2 cytokines by adipose tissue-associated c-Kit(+)Sca-1(+) lymphoid cells. Nature., 463, 540-4 (2010), PMID: 20023630
12) Oboki K, Ohno T, et al., IL-33 and IL-33 receptors in host defense and diseases. Allergol Int., 59, 143-60 (2010), PMID: 20414050
13) Schmitz J, Owyang A, et al., IL-33, an interleukin-1-like cytokine that signals via the IL-1 receptor-related protein ST2 and induces T helper type 2-associated cytokines. Immunity., 23, 479-90 (2005), PMID: 16286016
14) Hayakawa H, Hayakawa M, et al., Soluble ST2 blocks interleukin-33 signaling in allergic airway inflammation. J Biol Chem., 282,26369-80 (2008), PMID: 17623648
15) Kambe N, Nakamura Y, et al., The inflammasome, an innate immunity guardian, participates in skin urticarial reactions and contact hypersensitivity. Allergol Int., 59, 105-13 (2010), PMID: 20179416
16) Nold MF, Nold-Petry CA, et al., IL-37 is a fundamental inhibitor of innate immunity. Nat Immunol., 11,1014-22 (2010), PMID: 20935647


関連製品

抗体

抗IL-18抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>

抗IL-33抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>

抗ST2抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>

抗HMGB1抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>

抗TLR抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>

抗ASC抗体製品リストはこちらをご覧ください >>>


キット・タンパク質

コードNo.
製品名
7620
Human IL-18 ELISA Kit
7625
Mouse IL-18 ELISA Kit
5332
Ab-Match ASSEMBLY Mouse IL-33 Kit
7650
Human IL-33 Cytokine Domain Detection Kit
7638
ST2 ELISA Kit
B001-5
Recombinant Human IL-18
B002-5
Recombinant Mouse IL-18
コード番号をクリックすると各製品の詳細情報をご確認いただけます。